大判例

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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)231号 判決

宮城県仙台市青葉区川内(番地なし)

原告

財団法人半導体研究振興会

同代表者理事

緒方研二

同訴訟代理人弁理士

中村和年

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

同指定代理人

下道晶久

加藤恵一

飯高勉

及川泰嘉

関口博

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成5年審判第16416号事件について平成6年8月11日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和59年8月22日、名称を「光トリガ・光クエンチゲート・ターン・オフ・サイリスタ」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、特許出願(特願昭59-175733号)をしたが、平成5年6月23日拒絶査定を受けたので、同年8月19日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成5年審判第16416号事件として審理した結果、平成6年8月11日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年9月16日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

(1)  特許請求の範囲第1項に記載された発明(以下「本願第1の発明」という。)

ゲート・ターン・オフ・サイリスタとそのゲートに接続された第一及び第二の光感応素子と、第一の光感応素子へ第一の光信号を照射する光源及び伝送媒体手段と第二の光感応素子へ第二の光信号を照射する光源及び伝送媒体手段とから構成され、第一の光信号によって該ゲート・ターン・オフ・サイリスタがターン・オンされ、第二の光信号によって該ゲート・ターン・オフ・サイリスタがターン・オフされ、第一及び第二の光感応素子がそれぞれ、第一及び第二の静電誘導ホトトランジスタで構成されたことを特徴とする光トリガ・光クエンチゲート・ターン・オフ・サイリスタ。(別紙図面1第1図(a)参照)

(2)  特許請求の範囲第3項に記載された発明

ゲート・ターン・オフ・サイリスタとそのゲートの接続された第一及び第二の光感応素子と、さらに第二の光感応素子の制御電極に接続された第三の光感応素子と、第一及び第三の光感応素子へ第一及び第三の光信号をほぼ同時に照射する複数もしくは単一の光源及び伝送媒体手段と、第二の光感応素子へ第二の光信号を照射する光源及び伝送媒体手段とから構成され、第一及び第三の光信号によって該ゲート・ターン・オフ・サイリスタがターン・オンされ、第二の光信号によって該ゲート・ターン・オフ・サイリスタがターン・オフ(オンは誤記と認める。)されることを特徴とする光トリガ・光クエンチゲート・ターン・オフ・サイリスタ。

(3)  特許請求の範囲第5項に記載された発明(以下「本願第3の発明」という。)

ゲート・ターン・オフ・サイリスタとそのゲートの接続された第一の光感応素子と、さらに該ゲート・ターン・オフ・サイリスタのゲートに接続された別の増幅素子と、その増幅素子のゲートに接続された第二の光感応素子と、第一の光感応素子へ第一の光信号を照射する光源及び伝送媒体手段と、第二の光感応素子へ第二の光信号を照射する光源及び伝送媒体手段とから構成され、第一の光信号によって該ゲート・ターン・オフ・サイリスタが、ターン・オンされ、第二の光信号によって該ゲート・ターン・オフ・サイリスタがターン・オフされることを特徴とする光トリガ・光クエンチゲート・ターン・オフ・サイリスタ。

(4)  特許請求の範囲第7項に記載された発明

ゲート・ターン・オフ・サイリスタとそのゲートに接続された第一の感応素子とさらに該ゲート・ターン・オフ・サイリスタのゲートに接続された別の増幅素子と、その増幅素子のゲートに接続された第二及び第三の光感応素子と、第一及び第三の光感応素子へ第一及び第三の光信号をほぼ同時に照射する複数もしくは単一の光源及び伝送媒体手段と、第二の光感応素子へ第二の光信号を照射する光源及び伝送媒体手段とから構成され、第一及び第三の光信号によって該ゲート・ターン・オフ・サイリスタがターン・オンされ、第二の光信号によって該ゲート・ターン・オフ・サイリスタがターン・オフされることを特徴とする光トリガ・光クエンチゲート・ターン・オフ・サイリスタ。

(5)  特許請求の範囲第9項に記載された発明

ゲート・ターン・オフ・サイリスタと、そのゲートに接続された第一及び第二の増幅素子と、該第一及び第二の増幅素子のゲートに接続された第一及び第二の光感応素子と、第一の光感応素子へ第一の光信号を照射する光源及び伝送媒体手段と、第二の光感応素子へ第二の光信号を照射する光源及び伝送媒体手段とから構成され、第二の光信号によって該ゲート・ターン・オフ・サイリスタがターン・オンされ、第一の光信号によって該ゲート・ターン・オフ・サイリスタがターン・オフされることを特徴とする光トリガ・光クエンチゲート・ターン・オフ・サイリスタ。

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  これに対して、特開昭58-204619号公報(以下「引用例」という。)には、

“GTO28と、GTO28のゲートに抵抗24を介して(「分して」は誤記と認める。)接続されたトランジスタTr1と、GTO28のゲートに抵抗27とオフゲート電源25を介して接続された電流増幅用のトランジスタ26と、GTO28のゲートに抵抗27とオフゲート電源25を介して接続され、電流増幅用のトランジスタ26のゲートにも接続されたトランジスタTr2と、トランジスタTr1へ光信号を照射するフォトカプラ213のダイオードD1と、トランジスタTr2へ光信号を照射するフォトカプラ223のダイオードD2とから構成され、トランジスタTr1への光信号によってGTO28がターン・オンされ、トランジスタTr2への光信号によってGTO28がターン・オフされるGTOのゲート駆動回路”

の発明(以下「引用例に記載された発明」という。)が記載されている(特に、図面第4図(別紙図面2参照)とその説明に留意)。

(3)  そこで、まず、本願第1の発明と引用例に記載された発明とを対比検討する。

引用例に記載された発明における“GTO28”が本願第1の発明における「ゲート・ターン・オフ・サイリスタ」に、同様に、“トラシジスタTr1”が「第一の光感応素子」に、“トランジスタTr2”が「第二の光感応素子」に、“ダイオードD1”及び“フォトカプラ213”が「第一の光信号を照射する光源及び伝送媒体手段」に、ダイオードD2”及び“フォトカプラ223”が「第二の光信号を照射する光源及び伝送媒体手段」に、“GTOのゲート駆動回路”が「光トリガ・光クエンチゲート・ターン・オフ・サイリスタ」に、それぞれ対応するものであることは、各々の機能等からみて明らかであるから、両者は、

『ゲート・ターン・オフ・サイリスタとそのゲート回路に接続された第一及び第二の光感応素子と、第一の光感応素子へ第一の光信号を照射する光源及び伝送媒体手段と第二の光感応素子へ第二の光信号を照射する光源及び伝送媒体手段とから構成され、第一の光信号によって該ゲート・ターン・オフ・サイタスタがターン・オンされ、第二の光信号によって該ゲート・ターン・オフ・サイリスタがターン・オフされる光トリガ・光クエンチゲート・ターン・オフ・サイリスタ。』

である点で一致し、以下の各点で一応相違する。

〈1〉 『第一及び第二の光感応素子』の接続位置に関し、本願第1発明が『ゲート』に(直接)接続させているのに対し、引用例に記載された発明は『ゲート』に抵抗を介して接続させている点。

〈2〉 『第一及び第二の光感応素子』の種類に関し、本願第1の発明が「静電誘導ホトトランジスタ」としているのに対し、引用例に記載された発明はそのようなものとしていない点。

(4)〈1〉  相違点〈1〉について検討する。

『第一及び第二の光感応素子』は、それぞれの機能等から明らかなように『ゲート回路』をオン・オフするスイッチ素子であって、その接続位置は、『ゲート回路』をオン・オフしうる位置であればたりるところ、本願第1の発明がそれらを『ゲート』に(直接)接続させていることの格別の意義も認められないから、本願第1の発明がそのような接続位置をとることは設計上適宜になし得たことと認められる。

〈2〉  相違点〈2〉について検討する。

本願第1の発明が『第一及び第二の光感応素子』を「静電誘導ホトトランジスタ」とした理由は、要は、「高速」、「高光感度」(本願明細書27頁9行、15行ほか)機能を実現したいということであると認められるところ、静電誘導ホトトランジスタがそのような機能をもつ光感応素子であることはすでによく知られているから(必要であれば、特開昭55-13924号公報、特開昭58-93386号公報、特開昭59-107578号公報参照。)、本願第1の発明のように、『第一及び第二の光感応素子』をそのようなものとすることは、その「高速」、「高光感度」機能を実現したいという必要に応じて容易に想到し得たことと認められる。

〈3〉  したがって、本願第1の発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

(5)  次に、本願第3の発明と引用例に記載された発明とを対比検討する。

引用例に記載された発明における“GTO28”が本願第3の発明における「ゲート・ターン・オフ・サイリスタ」に、同様に、“トランジスタTr1”が「第一の光感応素子」に、“電流増幅用のトランジスタ26”が「別の増幅素子」に、“トランジスタTr2”が「第二の光感応素子」に、“ダイオードD1”及び“フォトカプラ213”が「第一の光信号を照射する光源及び伝送媒体手段」に、ダイオードD2”及び“フォトカプラ223”が「第二の光信号を照射する光源及び伝送媒体手段」に、“GTOのゲート駆動回路”が「光トリガ・光クエンチゲート・ターン・オフ・サイリスタ」に、それぞれ対応するものであることは、各々の機能等からみて明らかであるから、

両者は、

『ゲート・ターン・オフ・サイリスタとそのゲート回路に接続された第一の光感応素子と、さらに該ゲート・ターン・オフ・サイリスタのゲート回路に接続された別の増幅素子と、その増幅素子のゲートに接続された第二の光感応素子と、第一の光感応素子へ第一の光信号を照射する光源及び伝送媒体手段と、第二の光感応素子へ第二の光信号を照射する光源及び伝送媒体手段とから構成され、第一の光信号によって該ゲート・ターン・オフ・サイリスタがターン・オンされ、第二の光信号によって該ゲート・ターン・オフ・サイリスタがターン・オフされることを特徴とする光トリガ・光クエンチゲート・ターン・オフ・サイリスタ。』

である点で一致し、『第一の光感応素子』と『別の増幅素子』の接続位置に関し、本願第3の発明が『ゲート』に(直接)接続させているのに対し、引用例に記載された発明は『ゲート』に抵抗を介して接続させている点で一応相違する。

(6)〈1〉  よって、その相違点を検討すると、『第一の光感応素子』や『別の増幅素子』は、それぞれの機能等から明らかなように、『ゲート回路』をオン・オフさせるスイッチ素子であって、その『ゲート回路』をオン・オフしうるいずこかに接続されればたりるものであるところ、本願第3の発明がそれらを『ゲート』に(直接)接続させていることの格別の意義も認められないから、本願第3の発明がそのような接続位置をとることは設計上適宜になし得たことと認められる。

〈2〉  したがって、本願第3の発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

(7)  以上のように、本願第1の発明、本願第3の発明が特許を受けることができないものである以上、本願は、特許請求の範囲に記載された他の発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。

4  取消事由

審決の理由の要点(1)、(2)は認める。同(3)は認めるが、相違点は他にもある。同(5)は認めるが、相違点は他にもある。その余は争う。

審決は、本願第1及び第3の発明の技術内容を誤認したため相違点を看過し、かつ、相違点についての判断及び効果についての判断を誤った結果、進歩性の判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(本願第1の発明についての相違点の看過)

〈1〉 本願第1の発明において、光トリガ及び光クエンチ用の静電誘導ホトトランジスタの出力端子がゲート・ターン・オフ・サイリスタ(以下「GTO」ともいう。)のゲートに直接接続されることは、第一又は第二の静電誘導ホトトランジスタの導通時にバイアス電圧が抵抗を介在することなくGTOのゲートに直接印加されることを意味し、これを構成要件としているが、引用例にはこの点の記載も示唆もなく、この点において両者は相違しているにもかかわらず、審決はこの相違点を看過している。

上記のように解すべきことは、本願明細書(甲第2号証)中の次の記載から明らかである。

(a) 第1図(a)(別紙図面1参照)について、「ゲートG4は、光トリガのための光感応素子5及び光クエンチのための光感応素子6に接続されていて、カソードK3は接地されている。」(12頁9行なしい12行)、「5は光トリガ用光感応素子で正の電源Vt7に接続されており、6は、光クエンチ用光感応素子で負の電源Vq8に接続されている。」(12頁14行ないし17行)

(b) 第2図(a)(別紙図面1参照)について、「ゲートG19は、光トリガ用pチャンネル静電誘導ホトトランジスタ(p-ch.SIPT)TT20のドレイン及び、光クエンチ用p-ch.SIPT、QT21のソースに接続されている。」(15頁12行ないし16行)

(c) 第3図について、「ゲートG38は、光トリガ用SIホトサイリスタ(SIPThy.)TThy.39のソースと、光トリガ用SIPThy.39のゲート抵抗Rgt42、及び、光クエンチ用p-ch.SIPTQT40のソースに接続されている。」(19頁11行ないし15行)

(d) 第4図(a)について、「ゲートG56は、光トリガ用SIPThy.TThy.57のソースと、光トリガ用SIPThy.57のゲート抵抗Rgt60及び、光クエンチ用SIThy.QThy.58のアノードに接続されている。」(21頁8行ないし12行)

(e) 第5図について、「ゲートG77は、光トリガ用p-ch.SIPT TT78のドレイン及び、光クエンチ用p-ch.SIPT QT79のソースに接続されている。」(23頁10行ないし13行)

(f) 第6図(a)について、「ゲートG97は、光トリガ用SIPThy.TThy.98のカソードと抵抗Rgt101、及び光クエンチ用SIThy.QThy.99のアノードに接続されている。」(25頁18行ないし26頁2行)

(g) 第7図(a)について、「GTO200のゲートG203は、p-ch.MOS204とn-ch.MOS205で構成されるCMOSインバータの出力に接続されている。」(28頁1行ないし4行)

また、本願明細書においては、ゲート・ターン・オフ・サイリスタのアノードとその電源間あるいは静電誘導ホトトランジスタのゲートとそのゲート電源間に抵抗が接続される際には、例えば、第2図(a)(別紙図面1参照)に示された実施例において「アノードA17は負荷抵抗RL28を介してV’AK29にバイアスされている。」(15頁11行、12行)等と記載され、電気的な直接接続と、抵抗を介した間接的な接続とを十分区別して表現している。

〈2〉 次に、本願第1の発明においては、第一の静電誘導ホトトランジスタはソース接地回路を形成するように、そのドレインをゲート・ターン・オフ・サイリスタのゲートに直接接続すると共に、第二の静電誘導ホトトランジスタはドレイン接地回路(ソースフォロワ回路)を形成するように、そのソースをゲート・ターン・オフ・サイリスタのゲートに直接接続したものであり、これを要旨とするものであるが、引用例にはこの点の記載も示唆もなく、この点において両者は相違しているにもかかわらず、審決はこの相違点を看過している。

(2)  取消事由2(本願第1の発明の相違点〈1〉についての判断の誤り)

審決は、本願第1の発明が第一及び第二の光感応素子を『ゲート』に(直接)接続させていることは設計上適宜になし得たことである旨判断するが、誤りである。

〈1〉 本願第1の発明の特徴は、(a)光クエンチ用静電誘導ホトトランジスタQT21のソースがGTO16のゲートG19に何ら抵抗を介することなく直接接続されていること、及び、(b)光クエンチ用静電誘導ホトトランジスタQT21はGTOに対してドレイン接地(ソースフォロワ回路)の回路を構成していることにある(別紙図面1第2図(a)参照)。

〈2〉 これに対し、引用例に記載された発明においては、第1図(別紙図面2参照)に示されているように、複数のGTO12、13、14を直列接続して使用する際、負荷抵抗15に流れる電流値、配線ケーブルのインダクタンス、キャパシタンスによりGTOにオフ信号が印加される前に、GTO12、13、14の何れか、又はすべてのGTOがオフしてしまい、前記負荷抵抗15に印加される電圧が不安定な波形となるばかりでなく、最初にオフしたGTOに電源11の全電圧が印加されて前記GTOが破壊されるという欠点を解消することを目的としている。

このような目的を達成するために、第4図(別紙図面2参照)に示されるように、オンゲート電源23、フォトカプラ213のトランジスタTr1及び抵抗24の直列回路からなるオンゲート回路をGTO28のゲート・カソード間に接続してオン電流を抵抗24を介して流すと共に、ベースが開放(オープンベース)の電流増幅用のトランジスタ26とフォトカプラ223のトランジスタTr2とを有するスイッチング装置と、オフゲート電源25及び抵抗27の直列回路からなるオフゲート回路をGTO28のゲート・カソード間に接続して、第3図(a)、(b)(別紙図面2参照)に示されるように、オン信号が切れる時刻t2より前の時刻t3でオフ信号を印加し、オフ電流を抵抗27を介してGTO28のゲート・カソード間に流している。すなわち、引用例のオフゲート回路においては、ターン・オフ用のトランジスタTr2のコレクタはオフゲート電源25と抵抗27を介してGTO28のゲートに接続されると共に、そのエミッタは電流増幅用のトランジスタ26のベースに接続されており、さらに、電流増幅用のトランジスタ26のコレクタはオフゲート電源25と抵抗27を介してGTO28のゲートに接続されると共に、そのエミッタはGTOのカソードに接続されており、電流増幅用のトランジスタ26及びトランジスタTr2はダーリントン接続を形成している。

したがって、引用例には、GTOのゲート回路における負荷抵抗の合計を小さくして高速でターンオン、ターンオフするという着想について何ら示唆するところはなく、また、GTOのゲート駆動回路において第一及び第二の光感応素子として静電誘導ホトトランジスタを採用すると共に、各静電誘導ホトトランジスタのソースをGTOのゲートに何らの抵抗を介することなく直接接続することについて何ら示唆するものではない。

〈3〉 さらに、甲第7ないし第9号証及び乙第1ないし第7号証には、個々の一般的な技術が開示されているにすぎず、関連する技術分野に同様の課題を解決する類似の技術手段について何ら教示ないし示唆するところはない。

すなわち、乙第2ないし第4号証において使用される半導体は、サイリスタであって、ゲート・ターン・オフ・サイリスタではない。

また、ソース接地回路及びソース・フォロワ回路について、乙第5号証に示すように、その特性を含めて周知であるといっても、これはFETについての回路が示されているだけであって、静電誘導ホトトランジスタについて開示されているわけではない。

また、被告は、乙第7号証に基づき、サイリスタのゲート又はカソードに接続された抵抗の値が小さいほど高速でターンオン、ターンオフすることは自明であると主張するが、乙第7号証からCR時定数回路において抵抗の値が小さいほどコンデンサCの端子電圧は速く上昇することは認められるとしても、このことからサイリスタのゲート又はカソードに接続された抵抗の値が小さいほど高速でターンオン、ターンオフすることは自明であるとすることは飛躍があり、失当である。

〈4〉 したがって、引用例に記載された発明に甲第7ないし第9号証及び乙第1ないし第7号証に示された技術手段を適用しても、本願第1の発明が得られるものではないことは明らかであり、審決の本願第1の発明の相違点〈1〉についての判断は誤りである。

(3)  取消事由3(本願第1の発明の相違点〈2〉についての判断の誤り)

審決は、本願第1の発明のように、第一及び第二の光感応素子を静電誘導ホトトランジスタとすることは、容易に想到し得たことと判断するが、誤りである。

(4)  取消事由4(本願第1の発明の効果についての判断の誤り)

審決は、本願第1の発明の奏する効果についての判断を誤っている。

前記(2)に記載のとおり、引用例のオフゲート回路においては、ターン・オフ用のトランジスタTr2のコレクタはオフゲート電源25と抵抗27を介してGTO28のゲートに接続されると共に、そのエミッタは電流増幅用のトランジスタ26のベースに接続されており、さらに、電流増幅用のトランジスタ26のコレクタはオフゲート電源25と抵抗27を介してGTO28のゲートに接続されると共に、そのエミッタはGTOのカソードに接続されており、電流増幅用のトランジスタ26及びトランジスタTr2はダーリントン接続を形成している。通常、ダーリントン出力のフォトカップラのターン・オン時間と、ターン・オフ時間は数10マイクロ秒ないし数100マイクロ秒であるので、GTOに適用した際、数100マイクロ秒からミリ秒単位以上の低速スイッチングしかできず、また、トランジスタ26はエミッタ接地回路であるので、出力抵抗が大きくなり、さらに、前記トランジスタ26のコレクタに接続された抵抗27とGTO28のゲート抵抗との合計が負荷抵抗となり、スイッチング時間が増大している。

これに対し、光クエンチ用静電誘導ホトトランジスタQT21をGTOに対してドレイン接地(ソースフォロワ回路)の回路構成とすることにより、その出力インピーダンスは小さくなり、光クエンチ用静電誘導ホトトランジスタQT21のソースとGTO16のゲートG19との間に抵抗が必要でないこと、並びに、静電誘導ホトトランジスタ自体の低いオン抵抗と相まって、GTOの特にターン・オフ時間が著しく減少し、GTOのターン・オン及びターン・オフが高速で行われるという作用効果が得られる。

(5)  取消事由5(本願第3の発明について)

〈1〉 本願第3の発明においても、第一の光感応素子と別の増幅素子の導通時にバイアス電圧が抵抗を介在することなくGTOのゲートに直接印加されることを意味しているが、審決はこの相違点を看過している。

〈2〉 そして、上記構成を採用することによって、GTOのターン・オン時間及びターン・オフ時間が著しく減少し、GTOのターン・オン及びターン・オフが高速で行われることは、本願第1の発明の場合と同様であり、審決の本願第3の発明の相違点についての判断及び効果についての判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)取消事由1について

〈1〉 本願の特許請求の範囲第1項には、光感応素子の一方の端子がGTOのゲートに接続されている点は明記されているが、光感応素子の他方の端子に関する記述は何らないから、本願第1の発明は該他方の端子に抵抗が接続されている場合を排除していない。この抵抗は、この種の回路において通常使用されている電流制限抵抗であり(乙第1号証参照)、その機能はGTOのゲートとカソードの間に接続される限り、その接続位置によらず同じものであり、回路としては等価なものである。乙第1号証には、GTOのゲートに接続されない電流制限抵抗が記載されている(第2図のR3及びR4、2頁右下欄6行ないし8行)。

したがって、本願第1の発明が第一及び第二の光感応素子をゲートに(直接)接続させていることは設計上適宜になし得たこととした審決の判断に誤りはない。

〈2〉 本願明細書の特許請求の範囲第1項によれば、第一及び第二の静電誘導ホトトランジスタはGTOのゲートに接続されることは規定されているが、それらがソース接地回路及びドレイン接地回路を形成することについては何ら記載されていない。

それ故、一方をソース接地回路を形成するように、他方をドレイン接地回路(ソース・フォロワ回路)を形成するものと本願第1の発明を限定して解釈する理由はなく、原告の主張は失当である。

(2)  取消事由2について

〈1〉 原告は、引用例がGTOを直列接続したものであることを根拠として、本願第1の発明とその目的及び効果が異なると主張する。

しかしながら、引用例にはGTOを直列接続した回路が記載されているが、直列接続した回路が動作するためには、一個のGTOから構成される第4図(別紙図面2参照)の回路が単独で動作可能であることが前提となる。そして、半導体を用いたスイッチング回路において高速及び高感度な特性を実現すること、並びに、誤動作を防止することは一般的な課題である。例えば、乙第4号証(2頁右上欄8行ないし11行及び同頁左下欄8行ないし10行)には、高速及び高感度な特性を実現すること、誤動作を防止することが実質的に記載されている。

したがって、引用例の第4図に記載された回路が単独で動作可能であり、一般的な課題である高速及び高感度な特性を実現すること並びに誤動作を防止することについても配慮されていることは当然のことであるから、原告の上記主張は失当である。

〈2〉 仮に本願第1の発明が、前記電流制限抵抗を有さないものであるとしても、引用例に記載された発明のGTOのゲートに接続された抵抗は省略可能なものであり、省略した場合の効果も当業者にとって自明のことであるから、このような抵抗を省略することは単なる設計事項にすぎない。

すなわち、特開昭54-52968号公報(乙第2号証)には「(12)およひ(13)はそれそれ前記第2のコンデンサの放電電流制限抵抗およびサイリスタ(1)のゲート電流制限抵抗であり本質的には必ずしも必要でない。」(3頁右下欄17行ないし20行)と記載されている。

実開昭54-170761号公報(乙第3号証)には、このような電流制限抵抗を有さないものが記載されている。

特開昭53-3767号公報(乙第4号証)には、「抵抗(R3)を数100KΩ以上の大きな抵抗値にする必要があるが、この抵抗値をあまり大きくすると、その回路時定数が大きくなってトランジスタ(Q1)およびホトトランジスタ(Q2)のスイッチングスピードが遅くなる。このことは、回路全体のスイッチング時間が著しく長くなるばかりでなく、回路の誤動作につながるという欠点となる。」(2頁左下欄3行ないし10行)と記載されている。

さらに、乙第6号証(宮入庄太編「サイリスタ応用ハンドブック」日刊工業新聞社 昭和47年2月29日発行)によれば、GTOも広義のサイリスタであること、及びSCRと称される狭義のサイリスタと基本構造が同様なものであることが認められる(表1.1)。そして、SCRも原理的にはゲート電流によりターン・オフ可能なものであり、GTOのターン・オンの場合はSCRと同様であり、ターン・オフの場合も電流の方向が逆になるだけであるから、乙第1及び第2号証のサイリスタ(SCR)の場合と同様にGTOであってもこのような抵抗の作用は同じであり、また乙第2及び第3号証のように省略可能なものである。

さらに、乙第6号証の図1.17(同図は等価回路であり、ゲートの位置については図1.15を参照)のようにサイリスタのゲートとカソードの間には接合容量Cが存在する。そのためサイリスタのゲート又はカソードに接続された抵抗とにより時定数回路が形成される。このような回路は乙第7号証(電子通信学会編「改版基礎電気回路Ⅲ-過渡・非線形編-」コロナ社昭和43年5月10日改版発行)に示すように抵抗の値が小さいほどコンデンサの端子電圧は速く上昇する。サイリスタのゲートとカソードの間に流れる電流は上記接合容量Cの端子電圧が速く上昇するほどターンオンに必要な電流値に速く達する。したがって、サイリスタのゲート又はカソードに接続された抵抗の値が小さいほど高速でターンオンする。また、ターンオフの場合も電流と電圧の極性が逆になるだけでターンオンの場合と同様である。そのため、このような抵抗を省略した場合には、該抵抗がある場合よりも高速でターンオン及びターンオフすることは、当業者にとって自明のことである。

〈3〉 仮に、本願第1の発明が、ソース接地回路及びドレイン接地回路を形成するものであるとしても、その点の相違は、当業者が設計上適宜行うことにすぎない。

すなわち、ダーリントン接続及びそれがダーリントン接続された個々のトランジスタの増幅率の積の増幅率を有する単一のトランジスタと等価なことは当業者にとって周知のことであり、それを採用するかどうかは、単なる設計事項である。そのため、引用例に記載された発明において、光感応素子として静電誘導ホトトランジスタを採用するに際して、ダーリントン接続を行わない単一の素子を採用することは単なる設計事項にすぎない。このことは、乙第2号証の記載(6頁左上欄7行ないし15行及び第9図)からも明らかである。また、引用例においても、Tr1はダーリントン接続されていない。

ソース接地回路及びソース・フォロワ回路については、乙第5号証に示すように、その特性を含めて当業者に周知のものであり、どちらを採用するかは設計事項といえるので、引用例に記載された発明において、第一及び第二の光感応素子として静電誘導ホトトランジスタを採用するに際して、第一の光感応素子として採用される静電誘導ホトトランジスタをソース接地回路として、第二の光感応素子として採用される第二の静電誘導ホトトランジスタをソース・フォロワ回路(ドレイン接地回路)とすることは、単なる設計事項にすぎない。

また、トランジスタのベース(FET等であればゲート)を開放することなく適当なバイアス電圧を印加することは、必要に応じて当業者が適宜行うことにすぎない。

(3)  取消事由3について

静電誘導ホトトランジスタが高速及び高光感度機能を有する光感応素子であることは、よく知られたことであるから(甲第7ないし第9号証)、相違点〈2〉を本願第1の発明のようにすることは、容易に想到し得たこととする審決の判断に誤りはない。

(4)  取消事由4について

本願第1の発明の構成により奏する効果も格別のものということはできないから、この点の審決の判断に誤りはない。

(5)  取消事由5について

〈1〉 本願の特許請求の範囲第3項には、第一の光感応素子や別の増幅端子の一方の端子がGTOのゲートに接続されている点は明記されているが、それらの他方の端子に関する記述は何らないから、本願第3の発明は該他方の端子に抵抗が接続されている場合を排除していない。この抵抗の機能はGTOのゲートとカソードの間に接続される限り、その接続位置によらず同じものであり、回路としては等価なものである。

したがって、本願第3の発明が第一の光感応素子等をゲートに(直接)接続させていることは設計上適宜になし得たこととした審決の判断に誤りはない。

〈2〉 そして、審決の本願第3の発明の相違点についての判断及び効果についての判断に誤りがないことは、本願第1の発明の場合について前述したのと同様である。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

そして、審決の理由の要点(2)(引用例の記載事項の認定)、(3)(本願第1の発明についての一致点、相違点の認定)及び(5)(本願第3の発明についての一致点、相違点の認定)は、当事者間に争いがない(ただし、原告は、本願第1及び第3の発明につき、相違点は他にもあると主張する。)。

2  原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  取消事由1について

〈1〉  原告は、本願第1の発明において、光トリガ及び光クエンチ用の静電誘導ホトトランジスタの出力端子がGTOのゲートに(直接)接続されることは、第一又は第二の静電誘導ホトトランジスタの導通時にバイアス電圧が抵抗を介在することなくGTOのゲートに直接印加されることを意味し、これを構成要件としていると主張する。

しかしながら、前記説示の本願第1の発明の要旨(特許請求の範囲第1項)には、光感応素子の一方の端子がGTOのゲートに接続されている点は明記されているとしても、光感応素子の他方の端子について、抵抗を有しないことを明記又は示唆する記載はない。また、本件においては、特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない等の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情も認められず、仮に本願明細書の詳細な説明中の記載及び図面の記載を参酌したとしても、原告がその主張の根拠として指摘する記載箇所は、いずれも実施例についての説明にとどまり、本願第1の発明が光感応素子の他方の端子に抵抗が接続されない点を要件とするものと解すべき根拠とはならない。

したがって、本願第1の発明の要旨は、第一又は第二の静電誘導ホトトランジスタの導通時にバイアス電圧が抵抗を介在することなくGTOのゲートに直接印加される点を構成要件とするものとは認められない。

〈2〉  また、原告は、本願第1の発明の要旨(特許請求の範囲)にドレイン接地回路等を形成していることが含まれると主張し、その点で審決には相違点の看過があると主張する。

しかしながら、前記説示の本願第1の発明の要旨(特許請求の範囲第1項)には、第二の静電誘導ホトトランジスタはGTOのゲートに接続されていることが記載されているのみであって、該静電誘導ホトトランジスタがGTOに対してドレイン接地(ソースフォロワ回路)の回路構成をしていること等の記載又はこれを示唆する記載はないから、本願第1の発明の要旨は、ドレイン接地回路等の点を含まないものと認めざるを得ない。

〈3〉  したがって、原告主張の取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2ないし4について

〈1〉  まず、原告は、本願第1の発明と引用例に記載された発明とは課題を異にする旨主張する。

確かに、引用例(甲第6号証)には、複数のGTOを直列接続した回路が記載され(第1図)、発明の目的として、「GTOに流れる電流値及び電流波形によらずGTOの破壊を未然に防止し、安定な運転を可能とする直列接続したGTOのゲート駆動方式を提供する」(2頁右上欄11行ないし14行)と記載されていることが認められる。

しかしながら、審決の理由の要点(2)(引用例の記載事項の認定)は前記のとおり当事者間に争いがなく、この記載によれば、引用例には、一個のGTOをオン・オフするゲート駆動回路が記載されているものである。また、「ホトカプラを使用した入出力間絶縁回路」に関する乙第4号証(特開昭53-3767号公報)によれば、「このような回路において、端子(3)、(4)間に印加される駆動電圧Eoが比較的高い場合ホトカプラとして変換効率の高いホトカプラが必要になるが、」(2頁右上欄8行ないし11行)、「抵抗(R3)を数100KΩ以上の大きな抵抗値にする必要があるが、この抵抗値をあまり大きくすると、その回路時定数が大きくなってトランジスタ(Q1)およひホトトランジスタ(Q2)のスイッチングスピードが遅くなる。このことは、回路全体のスイッチング時間が著しく長くなるばかりでなく、回路の誤動作につながるという欠点となる。」(同頁左下欄3行ないし10行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、サイリスタ等の半導体を用いたスイッチング回路において、高速及び高光感度な特性を実現すること並びに誤動作を防止することは、当業者に周知の課題にすぎないと認められる。原告は、乙第4号証において使用される半導体はサイリスタであって、GTOではないと主張するが、上記高速スイッチング等の課題の点が、サイリスタかGTOかにより異なってくると解することはできないから、原告のこの点の主張は採用できない。

したがって、引用例に記載された発明においても高速なスイッチング動作について配慮すべきことは当然のことであるから、本願第1の発明と引用例に記載された発明とはそもそも課題を異にする旨の原告の主張は採用できない。

〈2〉  甲第8及び第9号証によれば、静電誘導ホトトランジスタが高速、高光感度のスイッチング機能を有することは、本願第1の発明の出願当時、周知であったことが認められる。そうすると、引用例に記載された発明において、本願第1の発明のように第一及び第二の光感応素子を静電誘導ホトトランジスタで構成することは、容易に想到し得たことと認められる。

〈3〉  本願第1の発明の要旨が、静電誘導ホトトランジスタの導通時にそのバイアス電圧が何ら抵抗を介在させることなくGTOのゲートに直接印加される点、及び、ドレイン接地回路等を構成する点をその構成要件として包含していないことは、前記(1)に説示のとおりである。そうすると、原告の主張のうち、本願の発明の特徴は、(a)光クエンチ用静電誘導ホトトランジスタQT21のソースがGTO16のゲートG19に何ら抵抗を介することなく直接接続されていること、及び、(b)光クエンチ用静電誘導ホトトランジスタQT21はGTOに対してドレイン接地(ソースフォロワ回路)の回路を構成していることにあることを前提とする点は、本願第1の発明の要旨に基づかない主張であるといわざるを得ない。

次に、本願第1の発明の要旨に基づいて判断すれば、本願第1の発明は、GTOのゲートに直接接続されないが間接的に接続されている電流制限抵抗を有するものも含むものであるところ、電流制限抵抗が接続されるものであれば、GTOのゲートとカソードの間に接続される限り、その接続位置によらず回路としては等価なものであると認められ、本願第1の発明と引用例に記載された発明とに作用効果において原告主張のような差異はないと認められる。

したがって、第一及び第二の光感応素子である静電誘導ホトトランジスタの接続位置を本願第1の発明のようにすることは設計上適宜になし得たことと認められるとした審決の判断並びに効果について格別のものとは認められないとの判断に誤りはないと認められる。

〈4〉  したがって、原告主張の取消事由2ないし4は理由がない。

(3)  取消事由5について

〈1〉  原告は、本願第3の発明においても、第一の光感応素子と別の増幅素子の導通時にバイアス電圧が抵抗を介在することなくGTOのゲートに直接印加されることを意味しているが、審決はこの相違点を看過している旨主張する。

しかしながら、前記説示の本願第3の発明の要旨(特許請求の範囲第5項)には、第一の光感応素子等の他方の端子について、抵抗を有しないことを明記又は示唆する記載はないから、本願第3の発明の要旨が、第一の光感応素子等の導通時にバイアス電圧が抵抗を介在することなくGTOのゲートに直接印加される点を含むものとは認められない。

〈2〉  そして、本願第3の発明の要旨に基づけば、本願第3の発明は、GTOのゲートに直接接続されないが間接的に接続されている電流制限抵抗を有するものも含むものであるところ、電流制限抵抗が接続されるものであれば、GTOのゲートとカソードの間に接続されるかぎり、その接続位置によらず回路としては等価なものであると認められ、本願第3の発明と引用例に記載された発明とに作用効果において原告主張のような差異はないと認められる。

したがって、第一の光感応素子や別の増幅素子をゲートに(直接)接続させていることに格別の意義も認められず、本願第3の発明がそのような接続位置をとることは設計上適宜になし得たことと認められるとした審決の判断に誤りはないと認められる。

〈3〉  したがって、原告主張の取消事由5は理由がない。

3  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙図面1

〈省略〉

別紙図面2

〈省略〉

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